カムイとともに時を刻む木彫りのアイヌ文様時計

アイヌ伝統の文様が施された、木彫りの壁掛け時計です。
アイヌコタンを訪れる観光客にも、オシャレなデザインで人気なんだとか。

大自然と共に生きてきたアイヌにとって、 衣食住すべてに役立つ「木」は、特別な神様と考えられてきました。

そんなアイヌと木の関わりについて、 阿寒湖アイヌシアター「イコロ」で舞踊等のプロデュースを行っている、 アイヌきっての芸術家・秋辺デボさんに、 阿寒湖畔の森を散策しながら、お話を伺いました。

一本一本の木に、カムイ(神)が宿っている

木は、松の木とか桜の木とか、種類によってアイヌ語でも色んな言い方があるけど、 総体的には、木のことを「シリコロカムイ」って言うんだよ。 「地面を守る神様」っていう意味ね。

木が地面を守ってくれているから、草が生えて、虫が湧いて、鹿がいて…。 みんなが生きていけるのは木の神様のお陰だよ、って考えられているの。

その木、一本一本に、カムイが宿っている。

アイヌは、木を切る前に、必ず神様に「◯◯に使います」って話してから、切るんだよ。 周りの木々にも、「この木がいなくなって、寂しくなるけど、よろしくね」と、 話しかけてから、切る。 切った後は、苗木を持ってきて、その木が生えていたところに植える。

そうやって、一本一本のカムイと対話しながら、木をいただく。 木を切るということは、命をいただく、ということだから。 無駄に切ることは絶対にしない。 だから北海道には、多くの木が残っているのかもしれないよね。

「カムイには、気を遣うよ」

木を切るとき、周りの木が「やきもち」を焼かないように、小声で話すこともあるの。 カムイだって、嫉妬するんだよ。

例えば、「枝振りの良い木を探して来い」って言われて、山に行くでしょ? 森の木々の中で、「あ、こっちの木は良い」「こっちはダメ」とか話していると、 神様が気分悪くするんだよね。

だって、良いかどうかなんて、こっちの勝手でしょ?

26歳のときかな。 森の中を「これ良い」「これ悪い」とか言いながら歩いているうちに、 なんか感じたんだよね。「ダメだな、こんなこと言ってちゃ」ってさ。 その日は木を選べなくてさ。仲間に、そのことを話したのを、覚えている。

それから10年くらい経って、別のアイヌの長老から、 「山に行って木を選ぶとき、これ良い、これ悪いって、言っちゃダメだぞ」って、 同じこと聞いたんだよね

だから俺らは、カムイには、すごく気を遣うよ。

神の国から、役目を担って、この世にやってくる

木と違って、鮭や鹿は、それを贈り出してくれる神様がいる、神様がくれるものなんだよ。 地上の動物と人間が暮らしていくために、 神様がくれたものであって、神様自体ではないんだよね。

神の国から、役目があって、地上に降ろされているの。 だから、役目を理解するのって大事なんだよ。

例えば桜って、花も咲くけどさ、 アイヌの場合は、桜の木の「皮」に名前が付いているの。カリンパって。 だから、アイヌは桜のことを「カリンパがくっついている木」って呼ぶんだよ。 皮は、色々と使えるけど、花は、よく分からないからね(笑)。 アイヌにとっては、使えるか使えないかが、とても大事なんだよ。

常に神様とコミュニケーションしながら暮らしているって? そう、だから、アイヌって話好きなんだよ。喧嘩したらウルサイ! 勝つまでしゃべるからね(笑)

アイヌ文様って、家紋みたいなものなんですか?

アイヌ文様は、家紋とは違うんだよ。 人間の顔と同じで、一つ一つ、ちょっとずつ違っているの。

地域ごとに特徴があるから、 「だいたい、◯◯地方の文様かな」っていうくらいは分かるけど、 あくまでも、個人的なものなんだよ。 誰が、何を想って、文様を施したか、全部違うからね。

アイヌって、
意外と個人主義なんだよ。